政府が進めている「働き方改革」。国民一人ひとりがニーズにあった形で働ける社会を実現していく中で、注目されているのが「フリーランス」という働き方です。「自由」も「リスク」もある、その働き方を始めるに必要な手続きについてお伝えしていきます。
開業届の提出
フリーランスになると、サラリーマン時代とは違って、自分で税金を納めることとなります。そこで、誰しも考えることが「節税」です。開業届を税務署へ提出しておくと「自分は個人事業主として働いています」と宣言できるだけでなく、所得税の控除額が大きく、赤字を次年度に繰り越せるなど節税効果のある「青色申告」もできます。また、開業届を提出しておくことで、万が一の廃業や退職時の生活に備えて資金の積み立てができる「小規模企業共済制度」に加入することもできます。この制度は、掛金を全額所得控除にできるなどの節税効果があり、また事業資金の借入れもできる制度です。他にも、自分が決めた屋号で銀行口座が開設できるなど、社会的信用を高める効果も期待できます。ただ、開業して1ヶ月以内に開業届を提出しておかないとその年度の青色申告ができなくなること、失業給付を受けている間は開業届を提出しないようにしておくことの2点には注意してください。
クレジットカードの作成
フリーランスになるとサラリーマン時代には気にも留めなかったことが困難になる場合があります。その1つがクレジットカードの作成です。サラリーマンには定収入があり、継続した雇用が期待されるため、安定していると一般的には考えられています。そしてそのことが社会的信用となり、クレジットカードを比較的作りやすい環境にあります。一方、フリーランスは自分で仕事を得ていく必要があるため、収入は不安定だと一般的には考えられています。決済手段としてクレジットカードを使うことができない場合には、銀行振込を利用するという方法もありますが、あまり歓迎されることではありません。他行への振込手数料が経費の増加へとつながったり、銀行の営業日との兼ね合いで余分に日数がかかったりするためです。また、メール配信システムやクラウド経理サービスといった月額での課金サービスを購入する際には、現金ではなくクレジットカード決済しか受けつけていない場合もあります。フリーランスになってから「クレジットカードが作れない!」とあわてる前に、準備期間であるサラリーマンのうちに作成しておくことが大切です。
青色申告承認申請書の提出
青色申告とは、税金の申告制度のことです。事業所得が一定以上発生した場合には、所得税と復興特別所得税の額を計算し、税金を支払うための手続き「確定申告」を行う必要があります。フリーランスなど個人の所得の計算期間は1月1日から12月31日の1年間です。通常2月中旬頃から3月中旬頃までに、確定申告書や決算書などの必要書類をそろえ、1月1日時点で住民票のある自治体内の税務署へ提出し納税します。このときに青色申告を利用すれば、所得から「最大65万円の控除」を受ける、赤字を3年間繰越する、勘定科目(売掛金や貸付金、前渡金などが将来的に貸倒れした場合に備えるための貸倒引当金という項目)を利用する、などのことができます。ただ、この青色申告を利用するには、「開業届が期限内に提出されていること」「青色申告承認申請書が開業から2ヶ月以内に提出されていること」「正規の簿記の原則により記帳された帳簿(通常は複式簿記)を作成し、領収書やレシート類などの一定の帳簿書類等を保存していること」などの条件があります。
フリーランス活動に必要な仕事環境の整備
道具がないとできない仕事や来客に備えるために店舗が必要な仕事以外の場合、もしくは他社から業務委託を受けるだけの場合は、パソコンとインターネットに接続する環境があれば、自宅でも作業が行えます。ただ、訪問販売や通信販売、連鎖販売取引等といった取引形態の事業を行う場合は、消費者保護と健全な市場形成の観点から、特定商取引法に基づく表記やプライバシーポリシーをWEBサイト等を使って公開する必要があります。そしてそこには、ご自身の連絡先や住所、責任者のお名前などを記載する必要があります。住所を表記することに抵抗がある場合は、バーチャルオフィスなどの貸住所を利用することもできますが、WEB上にその住所を表記することを禁止しているオフィスもありますので注意しましょう。また、自宅と職場を分けて仕事をしたいと考える方は、シェアオフィスを借りたり、コワーキングスペースを利用してもよいでしょう。
仕事用メールアドレスの用意
フリーランスとして働く場合、個人用メールアドレスのみを使っていると、仕事に関するメールと個人宛のメールが混在してしまい、大切なメールを見失うことにもつながります。また、フリーメールのアドレスを使っていると、自分が送ったメールが先方の迷惑メールフォルダに入ってしまい、せっかくのビジネスチャンスを失う可能性もあります。自社名が入った独自ドメインのメールアドレスは、自社ブランドのアピールにもなります。取引先とスムーズな関係を築くためにも、仕事用のメールアドレスと個人用のメールアドレスは、別に用意しておくほうがよいでしょう。
名刺の作成
フリーランスで仕事を始めたら、人脈形成が大切になります。「この仕事、誰かやれる人いないかな?」と思ったとき、真っ先に自分の姿を思い浮かべてもらうためにも、コミュニケーションの第一歩となる名刺作りには気を配りましょう。最近では自宅のカラープリンターで印刷しても綺麗なものができるようになってきていますが、やはり、他社と比較して見劣りするわけにはいきません。「名刺にまで気を配れる」人と、名刺を「連絡先の交換のためのもの」としか思っていない人とでは、印象も変わってきます。ビジネスチャンスを活かすためにも、名刺にはこだわりをもちたいところです。ポイントとして、厚みのある紙を使うと高級感と重厚感が演出できます。他にも、表面には連絡先を記載し、裏面には自分のプロフィールや自社のアピールを入れるなどの、相手の記憶に残る工夫をするとよいでしょう。
職務経歴書の作成
職務経歴書はあなたのスキルを証明するものです。「自分は何ができる人なのか」ということを中心に、提出先が求めていることも踏まえて自分の経歴を整理し、作成しましょう。もし、この作業が思うように進まないときには、ハローワークなどの公共機関にいるキャリアコンサルタントへ相談すると、無料で手伝ってくれます。また他人の視点も加えて作業を進めると、自分がやってきたことを立体的にとらえることができるようになり、「自分は何ができる人なのか」を明確にとらえられるようになります。一般的に職務経歴書の書式は自由ですが、目安はA4用紙2枚までです。多くの方はWordなどのソフトを使ってパソコンで作成しています。フリーランスの方は、ご自身の実績を中心にできるだけ専門用語を使わずに作成するとよいでしょう。
国民年金の加入手続き
今の職場を退職したら、年金の加入先が厚生年金から国民年金に変わります。この変更手続きは、退職後14日以内に自分で居住地の市区町村役場の国民年金担当窓口を訪問して行います。その際に必要なものは「印鑑」、「配偶者がいる場合は本人と配偶者の両方の年金手帳か基礎年金番号の通知書」、そして、コピーでも構わないので「退職年月日が分かる離職票や雇用保険被保険者証、退職証明書などの書類」、「免許証などの身分証明書」となります。この手続きは、国民年金第1号被保険者となるための手続きとなり、手続き終了後は保険料を毎月自分で納めることになります。なお、保険料はまとめて前払いしておくと割引が適用されるのでお得です。国民年金の被保険者は、第1号・第2号・第3号と区分が分かれています。退職後のご本人は第1号被保険者となるのですが、配偶者がいる場合はご本人が退職した時期により、区分が変わることがありますので詳しくは市区町村役場の国民年金担当窓口に問い合わせるとよいでしょう。
記事まとめ
自由に休みがとれる、自分の実力に合った評価と報酬がもらえるなど、フリーランスには様々な魅力があります。だからといって、無計画に準備期間もなく会社を辞めてしまうと大変な困難が待っているかもしれません。自分にとっての「働き方改革」を実現するためにも、しっかりと準備期間を設けて、スムーズにフリーランスへと移行していきたいものですね。