フリーランス(個人事業主)として働く人は、会社が源泉徴収をして税金を納めてくれるサラリーマンと違って、毎年必ず自分で確定申告をおこなう必要があります。
所得税は1年間の収入から必要経費や各種控除を差し引いた課税所得に税率を掛けて計算するので、経費を多く計上すれば納める税額も少なくなります。
ただし何でもかんでも経費として認められるわけではありません。では一体何が経費として認められて、何が認められないのか? フリーランスが知っておくべき経費と節税の基本について解説したいと思います。
フリーランスが納める税金
フリーランスが納める主な税金には所得税・住民税・消費税・個人事業税の4種類があります。そのうち所得税は次の計算式で税額が決まります。
収入 - 必要経費 - 所得控除 = 課税所得
課税所得 × 税率 - 税額控除 = 所得税額
住民税は所得に関わらず均等に課される「均等割」と、所得に応じて課される「所得割」がありますが、均等割は標準で5千円、所得割は次の計算式で税額が決まります。
(収入 - 必要経費 - 所得控除) × 10% - 税額控除 = 所得割額
なお、消費税は前々年の課税売上高が1,000万円以下であれば納める必要がなく、また開業後2年間も納めなくてよいことになっています(※一定の要件に該当すると課税事業者になる場合もある)。
個人事業税は「事業主控除」が290万円あるので、収入から必要経費や各種控除を差し引いた金額が290万円以下であれば課税されません。ただ後述する青色申告特別控除は個人事業税には適用されません。
いずれにしても節税のポイントになるのは「経費」と「控除」です。
フリーランスは経費になるものを知っておく
(1) 経費になるものとは
経費の原則は「事業のために必要な費用」です。同じものを購入しても事業のために購入したのであれば経費になりますし、目的が事業に関係しなければ経費にはなりません。
では具体的に経費にはどのような種類があるのでしょうか。国税庁のホームページから確定申告の際に必要な収支内訳書や青色申告決算書をダウンロードすることができますが、その中に記載されている経費項目は以下のとおりです。
・租税公課 ・荷造運賃 ・水道光熱費
・旅費交通費 ・通信費 ・広告宣伝費
・接待交際費 ・損害保険料 ・修繕費
・消耗品費 ・減価償却費 ・福利厚生費
・給料賃金 ・外注工賃 ・利子割引料
・地代家賃 ・貸倒金 ・雑費
※収支内訳書・青色申告決算書等(国税庁HP)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/02.htm
これらのうち主な経費項目について内容を確認しておきましょう。
【地代家賃】
事務所の家賃や月極駐車場代などが地代家賃となります。レンタルオフィスやシェアオフィスの利用料は「賃借料」とする場合が多いようです。また自宅をオフィスにしている場合も家賃を経費とすることができますが、その場合は家賃全額ではなく業務に使用している占有面積の割合などによって経費を算出(家事按分)する必要があります。
【水道光熱費】
家賃と同様、自宅をオフィスにしている場合は水道光熱費も経費とすることができますが、業務に使用している時間等から家事按分の比率を決める必要があります。
【通信費】
電話代、インターネット費用、請求書等の郵送料などが通信費となります。
【旅費交通費】
仕事に関する交通費は経費になります。車を利用した場合のガソリン代、高速道路料金、コインパーキング代なども含まれます。
【荷造運賃】
商品の発送にかかる梱包費や送料です。
【外注工賃】
仕事を外注した場合に外注先に支払う業務委託費は外注工賃となります。
【広告宣伝費】
新聞雑誌等への広告掲載、会社パンフレット、会社ウェブサイトなど広告宣伝にかかる費用です。
【接待交際費】
取引先との飲食代やゴルフ代などは接待交際費として計上することができます。ただし仕事とは関係ない家族との飲食代などは当然含まれません。また経費として節税になるといっても、お金が出ていくことには違いないので、単なる無駄遣いにならないように気を付けましょう。
【損害保険料】
オフィスの火災保険、賠償責任保険、休業補償保険など業務にかかる損害保険料です。
【消耗品費】
文房具、プリンターのトナー・インク、コピー用紙、電球など10万円未満の備品等は消耗品費として計上します。
【減価償却費】
パソコンなど10万円以上の備品等は減価償却の対象となり、耐用年数に応じて複数年に分割して費用計上します。
【租税公課】
収入印紙や住民票にかかる費用、個人事業税、消費税、固定資産税等は租税公課として経費になります。
なお、上記一覧にある項目しか経費として認められないわけではなく、収支内訳書・青色申告決算書の経費欄には空欄もあり、自分で経費項目を追加することができます。仕事に関連する団体に所属した場合の会費は「諸会費」、セミナーの参加費用は「研修費」、振込手数料等は「支払手数料」というように、事業のためにかかった支出は必要に応じて経費項目を追加して申告しましょう。
(2) 経費にならないものとは
経費の原則は「事業のために必要な費用」です。なので、事業と関係のない支出は経費として認められません。個人的な飲食は接待交際費にはなりませんし、家族との旅行は旅費交通費になりません。また既述したとおり、自宅をオフィスとしている場合、家賃や水道光熱費を経費として計上することはできますが、経費となるのは事業のために使用した割合のみです。所得税や住民税も租税公課に計上することはできません。
(3) 実は経費になるになる意外な例
実は経費として計上できるのに見落としがちなものもあります。
【祝儀・香典】
取引先の人の冠婚葬祭でご祝儀やお香典を包んだ場合は接待交際費として計上することができます。
【本・雑誌・DVD】
仕事のための研究・調査等を目的として購入する書籍・雑誌や、事務所で購読している新聞などは新聞図書費として経費計上することができます。
【住宅ローンの利息・固定資産税・火災保険料など】
持ち家をオフィスにしている場合、住宅ローンのうち利息分に関しては家事按分をして利子割引料として経費計上することができます。ただし住宅ローン控除を受けている場合、事業使用割合については住宅ローン控除を受けられず、事業使用割合が50%以上になると住宅ローン控除が全く受けられないので注意が必要です。一方で事業使用割合が10%未満であれば住宅ローン控除を全額受けることができます。家事按分についてはよく検討しましょう。同様に自宅兼オフィスにかかる固定資産税や火災保険料も家事按分をして経費計上することができます。
【制服・スーツ代】
制服や作業着、お店の屋号をプリントしたTシャツなど、もっぱら仕事のために使用する衣服は経費として計上することができます。それでは仕事のために着るスーツはどうでしょうか?これに関しては専門家の間でも「仕事にしか着ないのであれば経費とできる」という意見と、「冠婚葬祭などプライベートでも使用できるので経費計上は難しい」という意見があるようです。経費として申告することはできますが、プライベートでも着用する場合は家事按分をして業務使用分の割合のみ経費計上するなど経費を明確にしておいた方がよいでしょう。
フリーランスの節税のコツ
(1) 経費を正しく計上する
これまで見てきたように計上できる経費項目を知り、計上できるものは漏れなく計上することが節税につながります。逆に計上できる経費があるのに計上しなければ、その分税金を多く納めることになります。なお、支出の裏付けとなる領収書やレシートは確実に保管しておくことが大切です。
(2) 控除を活用する
節税につながるのは経費だけではありません。課税所得は収入から必要経費を差し引き、さらに所得控除を差し引いて計算します。そして課税所得に税率を掛けて計算した金額から税額控除を差し引いて最終的な税額が決定します。したがって経費とならんで各種控除も節税につながる重要なポイントになります。
フリーランスが適用できる控除とは
控除には所得控除と税額控除があります。所得控除は税率を掛ける前の金額から差し引くのに対して、税額控除は課税所得に税率を掛けて算出した税額から差し引きます。したがって税額控除の方がより節税効果は大きくなります。それでは所得控除と税額控除はそれぞれどのような種類があるのか見てみましょう。
【主な所得控除】
基礎控除、社会保険料控除、配偶者控除・配偶者特別控除、扶養控除、事業専従者控除、生命保険料控除・個人年金保険料控除・介護医療保険料控除、地震保険料控除、医療費控除、青色申告特別控除、etc.
【主な税額控除】
配当控除、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)、寄附金控除(特定のものに限る)、etc.
この中でフリーランスの人が特によく知っておきたい控除について確認しておきましょう。
(1) 青色申告特別控除
確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類があり、青色申告は事前申請した上でより厳密な記帳が求められますが、その一方で税制上いくつかの優遇が受けられます。その優遇措置の1つが「青色申告特別控除」で、最大で65万円の所得控除が受けられます。
(2) 専従者控除
青色申告をしている人は、一定の要件の下に生計をともにする配偶者や15歳以上(12月31日時点)の親族に支払った給与を「青色事業専従者給与」として経費に算入できるメリットもあります。白色申告の場合は経費に算入することはできませんが、「事業専従者控除」として一定金額の所得控除が認められています。金額は最大で事業主の配偶者は86万円、配偶者でなければ専従者一人につき50万円です。なお、青色事業専従者給与や事業専従者控除を受ける場合は、その人について配偶者控除や扶養控除は受けられません。
(3) 保険料控除
生命保険、医療保険・がん保険・介護保険等、個人年金保険、地震保険に加入して保険料を負担すると一定金額の所得控除が受けられます。
「一般生命保険料控除」、「介護医療保険料控除」、「個人年金保険料控除」はそれぞれについて最大で所得税から4万円、住民税から2万8000円の控除が受けられます。
「地震保険料控除」は年間の支払保険料が50,000円超の場合は所得税から50,000円、住民税から25,000円が控除されます。50,000円以下の場合は所得税については保険料全額が、住民税は支払保険料の1/2が控除できます。
厚生年金や健康保険、会社の福利厚生制度で手厚い保障が受けられる会社員と違って、国民年金・国民健康保険のフリーランスは何かと保障が手薄です。保険でリスクをカバーしながら受けられる控除はきっちり受けておきましょう。
(4) 小規模企業共済等掛金控除
国民年金加入者のフリーランスは、厚生年金加入の会社員や公務員と比較して老後の備えも手薄です。退職金もないので自ら計画的に老後資金を準備することが大切になります。
そのときに有効な手段になるのが「小規模企業共済制度」や「個人型確定拠出年金」(通称iDeCo)です。これらは老後のために自ら決めた掛金を積み立てる制度ですが、掛金の全額を所得控除できるという大きなメリットがあります。
(5) 寄附金控除
寄附金控除とは国や地方公共団体、特定の法人などに対して寄附をしたときに所得控除を受けられる制度です。この寄附金控除を使った制度として特に注目されているのが「ふるさと納税」です。ふるさと納税は通常の寄附金控除に加えて住民税から特例分の控除を受けられるため、ふるさと納税した金額のうち2,000円を超える部分について原則として全額の還付が受けられます。その上、ふるさと納税した自治体から特産品などの返礼品がもらえるので、生まれ育ったふるさとや所縁があって応援したい自治体に寄附をしたい場合は活用してみるのもいいかもしれません。
まとめ
フリーランスにとって少しでも節税したいというのは偽らざる本音です。そのためには漏れのないように正しく経費を計上し、各種控除を上手に活用しましょう。