フリーランスとして業務委託を受けて仕事をする場合、関係する税金を適切に処理することが必要になります。その際にポイントとなるのが「源泉徴収」です。
そもそも業務委託とはどういう契約なのか、どんな税金が関係するのか、そして業務委託契約の源泉徴収とはどのような仕組みで、どんなところに注意する必要があるのかについて解説していきたいと思います。
業務委託契約とは?
業務委託契約とは民法上の「請負」と「委任(準委任)」を総称するもので、発注元である事業者と雇用契約は結ばずに対等な立場で仕事を引き受け、報酬を受け取る契約形態のことをいいます。
■アルバイトとの違い
ではアルバイト契約と業務委託契約では何が違うのでしょうか?
まずアルバイトは「労働者」として雇い主と「労働契約」を結び、給与を受け取ります。したがって労働法や労働保険の適用対象になります。
一方で業務委託は労働者ではなく、独立した事業主として委託元の事業者から業務を受託し報酬を受け取るため、労働法や労働保険の対象にはなりません(※但し名目上は業務委託でも業務の実態によっては労働者にあたると判断される場合もあります)。
業務委託契約に関係する税金
業務委託で働く場合に関係する主な税金としては「所得税」「住民税」「個人事業税」「消費税」の4つがあります。
(1)所得税
業務委託による収入は事業所得として所得税の対象になります。所得税は1年間の収入から必要経費や各種控除を差し引いた金額をもとに計算され、フリーランス(個人事業主)の場合は確定申告によって納税額を確定します。
(2)住民税
住民税は前年の所得によって税額が決まり、毎年6月に納付書が届きます。6月、8月、10月、1月の4回に分けて納付しますが、6月に一括で納めることもできます。
(3)個人事業税
収入から必要経費や各種控除を差し引いた所得が290万円を超えると個人事業税の課税対象になります。個人事業税の納税通知書は8月に届き、8月と11月の2回に分けて納付します(※都道府県によって異なる場合があります)。税率は業種によって5%・4%・3%の3つに分類されています。
(4)消費税
消費税を負担するのは商品やサービスを購入した買い手ですが、納税義務者は買い手から消費税を受け取った売り手の事業者になります。但し事業者の前々年の課税売上高が1,000万円以下であれば納税義務はなく、また開業後2年間も納めなくてよいことになっています(※一定の要件に該当すると課税事業者になる場合もあります)。
業務委託の源泉徴収の基本知識について
業務委託契約に基づいて報酬を受け取る場合、多くの場合は報酬額から所得税の源泉徴収税額を差し引いた金額を受け取ることになります。このように報酬を支払う者がその支払う報酬からあらかじめ定められた所得税分を差し引き、報酬を受け取る者に代わって税金を納める仕組みを源泉徴収といいます。源泉徴収は報酬を支払う側の義務とされています。
(1) 源泉徴収税額の計算方法
源泉徴収税額は以下の計算式で算出します。
<報酬が100万円以下の場合>
源泉徴収税額 = 報酬額 × 10.21%
<報酬が100万円を超える場合>
源泉徴収税額 = (報酬額 - 100万円) × 20.42% + 102,100円
つまり報酬が10万円であれば、源泉徴収税額は100,000円×10.21%=10,210円となり、手取り報酬はこれを差し引いた89,790円となります。逆に手取りで10万円の報酬を受け取るためには100,000円÷0.8979=111,370円の支払いが必要になります。
フリーランスとして必要経費を支払いながら事業を継続し、生活をしていくためには手取りの収入額は重要です。業務委託の報酬を取り決める際にはあらかじめ源泉徴収を考慮しておく必要があります。
(2) 源泉徴収が必要な報酬
源泉徴収が必要になる報酬の範囲は法令で定められており、全ての報酬が源泉徴収の対象になるわけではありません。
報酬の支払いを受ける者が個人の場合、源泉徴収が必要になる報酬の範囲は以下のとおりです。
① 原稿料や講演料など
② 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
③ 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
④ プロスポーツ選手、モデル、外交員などに支払う報酬・料金
⑤ 芸能人や芸能プロダクションを営む個人へ支払う報酬・料金
⑥ バンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーに務めるホステスなどに支払う報酬・料金
⑦ プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時的に支払う契約金
⑧ 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
※参考:国税庁ホームページ 「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金とは」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2792.htm
尚、①「原稿料や講演料など」の中には、デザインの報酬、写真の報酬、作曲の報酬、技芸・スポーツ・知識等の教授・指導料、翻訳・通訳の報酬、著作権の使用料なども含まれています。
既述したとおり、源泉徴収は報酬を支払う側の義務とされていますが、念のため業務委託で仕事を受ける場合はその業務が源泉徴収の対象になるのか確認しておいた方がよいでしょう。
(3) 源泉徴収の義務を負わない人とは?
会社であっても個人であっても上記に該当する報酬等を支払う場合には源泉徴収義務者になります。但し個人のうち次の2つのいずれかに該当する人は源泉徴収をする必要はありません。
① 常時2人以下のお手伝いさんなどのような家事使用人だけに給与や退職金を支払っている人
② 給与や退職金の支払いがなく、弁護士報酬などの報酬・料金だけを支払っている人
したがってたとえばサラリーマンである個人が弁護士や税理士に報酬を支払っても、源泉徴収をする必要はありません。
(4) 確定申告で納税額を確定する
源泉徴収された所得税は源泉徴収した事業者(報酬を支払う側)が原則翌月10日までに納付しますが、これで終わりではありません。源泉徴収はあくまで暫定的な所得税の徴収なので、最終的には確定申告によって納税する金額を確定します。1年間の収入から必要経費や各種控除を差し引いて正しく計算し直した結果、源泉徴収された所得税額が本来納めるべき所得税額よりも多い場合は確定申告によって還付を受けることができます。
多くの委託元事業者は支払調書を交付してくれるので、確定申告の際にはその支払調書で報酬額や源泉徴収税額を確認することができます。但し支払調書を交付することは委託元事業者の義務ではないので、支払調書の交付を希望する場合は事前に委託元事業者に確認しておいた方がよいでしょう。
正しく確定申告をして、受けられる還付は漏れなく受けるためにも、経費の領収書等はなくさずに保管し、経費支払いや源泉徴収税額の記録はきちんと管理しておきましょう。
尚、源泉徴収税額は報酬額の10.21%(100万円を越える部分は20.42%、復興特別所得税含む)ですが、所得税の税率は所得金額が一定額以上になると超過した部分に高い税率が適用される超過累進課税方式が採用されており、所得が多いほど税率が上がる仕組みになっています。
<所得税の速算表>
※2037年まで所得税と併せて復興特別所得税(所得税額の2.1%)も申告・納付します。
たとえば課税所得が400万円の場合、上記の速算表に当てはめると所得税額は次のとおりです。
400万円 × 20% - 427,500円 = 372,500円
この速算表を使うと計算は簡単ですが、超過累進課税の仕組みを理解するには以下の計算式で確認した方が分かりやすいと思います。
400万円のうち
・195万円以下 → 5%
195万円 × 5% = 97,500円
・195万円超330万円以下 → 10%
135万円 × 10% = 135,000円
・330万円超 → 20%
70万円 × 20% = 140,000円
97,500円 + 135,000円 + 140,000円 = 372,500円
課税所得が195万円以下であれば適用される所得税率は5%なので、所得が少なく源泉徴収された所得税が多すぎる場合は確定申告で還付が受けられます。逆に所得が多い人は源泉徴収された所得税では足りず、確定申告により追加で納税する必要が生じる場合もあります。
業務委託の源泉徴収の注意点
(1) 旅費や宿泊費の取り扱い
講演などの仕事を業務委託で受けた場合、旅費や宿泊費を請求することもありますが、旅費や宿泊費などの支払いも原則として報酬・料金等に含まれます。したがって仮に10万円の講演料のほかに交通費2万円、宿泊費1万円を請求した場合、以下のとおり交通費・宿泊費も含めた金額に対して源泉徴収されることになります。
(10万円+2万円+1万円)×10.21%=13,273円 (源泉徴収税額)
但し、通常必要な範囲の金額で、報酬・料金等の支払者が直接ホテルや旅行会社等に支払った場合は、報酬・料金等に含めなくてもよいことになっています。
また源泉徴収の対象になった場合も、旅費・宿泊費は必要経費として認められ、本来は課税対象にはならないので、源泉徴収によって所得税の払い過ぎが生じた場合は、確定申告によって還付を受けることができます。
(2) 消費税の取り扱い
報酬・料金等の金額の中に消費税(及び地方消費税)の額が含まれている場合、原則として消費税の額を含めた金額が源泉徴収の対象になります。但し請求書等において報酬・料金等の額と消費税の額が明確に区分されている場合には、報酬・料金等の額のみを源泉徴収の対象としてもよいことになっています。
請求書等への消費税の記載方法、源泉徴収の取り扱いについては源泉徴収義務者である業務委託元の事業者と確認しておいた方がよいでしょう。
まとめ
フリーランスとして業務委託を受けて仕事をする上では、源泉徴収の仕組みを理解し、正しい確定申告をすることが大切です。うっかりすると税金の払い過ぎにもつながりかねないので注意しましょう。